高濃度ビタミンC点滴ってがんに効くの?
自費診療もおこなっているクリニックや病院で
行われている高濃度ビタミンC点滴療法。
良く知られているのは、がん治療に対する民間療法のような位置づけだと思います。
がんの治療だけでなく、アンチエイジングとしても注目されている方法です。
専門家のお話を聞く機会があったので、最新の知見としてまとめておきます。
高濃度ビタミンC点滴療法について、ちょっとグーグルで調べてみても
内服よりも血中濃度が上がるから、当然、効果があります!
と効果があることを前提に書かれている医療施設のサイトもあれば
マウスの腫瘍では効果があっても
人のがんには効果がなかったとの報告がいくつも出ていることを列挙して
効果がないことを検証しているサイトもあります。
そもそも高濃度VC療法はは
Cameron E & Pauling L という方が(Linus Carl Pauling氏はノーベル賞2度受賞されています。)
雑誌 Proc Natl Asad Sci USA 1976 に
Supplemental ascorbate in the suppotive treatment of cancer: Prolingation of survival times in terminal human cancer
の論文で発表したのが始まりとされます。
末期がん患者に10g/日の量でVC(ビタミンC)を10日間静脈内投与し、以後、同量を経口投与した。
VC投与群の平均生存期間(210日以上)は、コントロール群(50日)に比して、4.2倍以上に延長
さらに 追試として
Cameron E &Pauling L. Proc Natl Acad Sci USE 1978
Supplemental ascorbate in the suppotive treatment if cancer: reevaluation of prolongation of survival times in terminal human cancer.
その後、ビタミンC投与群の平均生存期間は、約300日に達した。
一般的治療不可と診断後の一年生存率は、コントロール群0.4%に比して、ビタミンC投与群では22%だった、と報告されました。
しかし、その後 New England Journal of Medicineに VC投与が末期がん患者によい影響はないとの報告が複数出たため、長年VC療法は表舞台では注目されずにきたところがあるそうです。
しかし、New England Journal of Medicineの報告は、経口摂取でのVC投与した場合の研究で、抗腫瘍効果が得られないとのものでした。
原法では、高濃度VCの点滴治療としています。
VCは経口投与ではあまり血中濃度が上がらず、静脈内投与で著名に上昇することが分かっています。
ビタミンCがなぜ癌に効くのか
VCは抗酸化物質として知られていますが、
常に抗酸化物質として働くばかりではなく、酸化促進物質としても作用するそうです。
そして、VCの殺細胞効果の機序は、
通常VCでよくいわれている抗酸化作用ではなく、
逆に酸化促進物質として作用する過酸化水素(H2O2)を発生することによります。
VCは、鉄や銅のあるところだと、H2O2を発生します。
VCを点滴投与すると、VCは組織の間質(腫瘍周囲)に高濃度に移行し、そこで有意な量のH2O2を発生 → VCが腫瘍選択的(正常細胞を傷つけない)な殺細胞効果を示す。
という流れがわかっていました。
2017年にSchoenfeld, JD et al. がCancer Cell
にさらに詳しい作用機序を報告しました。
「腫瘍細胞では正常細胞に比較してミトコンドリア内のO2ーとH2O2が増加しているために、反応しやすいlabie ironが細胞内に増加している。これが細胞外から細胞膜を通過してきたH2O2に反応して(フェントン反応)、H2O2よりも10の9乗もより反応しやすいヒドロキシラジカル(・OH)が産生され、DNAや細胞内分子を傷害して細胞死へと誘導することで、腫瘍選択的な効果を発揮すると考えられた。」
このようにVCの抗腫瘍作用がわかってきたのですが
他にもVCにはten-eleven translocation (TET) DNA hydroxylase(メチル化の抑制に関わる)や、jumonji histone demethylase(JHDM)の活性を高めるなど、抗腫瘍に関わる作用が明らかになってきています。
その他にも、担癌患者に対するVC単独投与、あるいは抗がん剤などのVC併用投与時に、QOLの改善、痛みの軽減などの報告があります。
高濃度ビタミンC点滴療法の副作用は?
起こりうる副作用としては、嘔気や、浸透圧を整えないと点滴の際に血管痛があること。また投与後数時間はみかけ上の高血糖をおこすことがあります。
G6PD(遺伝的なG6PD欠損症の方は、VC点滴療法で溶血(血球が壊れてしまう現象)が起こる。)や腎機能障害のない方であれば、高濃度VC点滴療法で、通常特に大きな副作用の心配はないとされています。
それで結局効くの?効かないの?。
いいことづくめのように見えるVC点滴療法なのですが、
どこのサイトをみてもほとんど書かれていないことがあります。
Mojic M et al. Sci Rep2014に 以下のような報告があります。
「VCが抗腫瘍効果をもつためには、VC由来のH2O2が細胞内に入ることが必要です。
しかし、細胞外の鉄濃度が高いと(普通の人ならそれなりに血清鉄があります。)
細胞外でフェントン反応によってH2O2からヒドロキシラジカルが産生され、
その反応性の高さゆえに、ごく短時間で主に細胞外タンパク質、一部はビタミンCや
膜脂質によっても緩衝され抗腫瘍効果が消失してしまう。」
つまり、普通に血液中にたくさん鉄があるような方にVCをいくら高濃度で投与しても
期待する作用は細胞外で生じるばかりでたいへん効率が悪い、ということになります。
そのため、これまで、in vitroやマウスなどでは抗腫瘍効果が認められても
ヒトに対する研究ではがんへの有効性がはっきりと示されてこなかった可能性があります。
そもそもどの程度の高濃度ビタミンCを点滴するとよいのかということもはっきり分かっていないようです。元法では50g〜70g/day ですが日本ではこの量でご案内のあるところは少ないようです。
担癌状態の方では血清フェリチン値が高いことも多いのですが、
フェリチンは貯蔵鉄を反映しており、これが高いとフリーの鉄も高いと考えられます。
そのまま点滴するだけでは、抗腫瘍効果を望むのは難しい、ということになります。
今回、私が聞いたところでは、方法論として高濃度VC点滴療法を有効に行うため方法論は、まだ研究途上で、確率されていないようでした。
例えば、として話されていたやり方としては、
VC(H2O2)を細胞内に届くようにするために、鉄のキレート剤(輸血による慢性鉄過剰症の治療に用いられるエクジェイドなど)を投与して、そのキレート効果が高まる投与4時間くらいに高濃度VCを点滴するとよいのかもしれない、ということでした。
これは血液内科の先生が本気で取り組む感じでないと、有効な高濃度VC療法というのは難しいのかなという印象でした。少なくとも高濃度VCをどんどん注射するだけでは、不十分なんだろうなという印象でした。
そんなに簡単で効くならみんなやりますよね。