耳管開放症って どういう状態?
耳と、鼻の奥をつないでいる「耳管」という構造があります。
この耳管は、安静にしているときは閉まっているんですが
ものを飲み込んだり、あくびをすると
短時間開きます。
飛行機にのって、
離陸すると耳がツーンとふさがった感じがありますよね
その時に、つばをごっくんしたり
あくびをすると
圧力が抜けるような感じがあると思います。
あのときに耳管が開いているんです。
体重減少や、加齢、妊娠、運動などが
きっかけになることが多いとされているんですが
耳管が開いたまま持続することを、
「耳管開放症」といいます。
「自声強調」といって
自分の声が響いたり 大きく感じたり
「自己呼吸音聴取」といって
自分の呼吸音が大きく聞こえたり
耳閉感 耳が詰まった感じの症状を起こします。
耳管開放症は、健康で、
これまで病気をしたことがないという若い方でも
突然起こることがあります。
耳閉感や、声が響く感じは、
症状が強いと、ストレスがとても大きいものです。
次に、耳管開放症の診断
についてお話します。
耳管開放症の症状で
声が大きくきこえたり
呼吸音が聞こえるのは
開放している耳管を通って
音が喉から耳に届くことによって起こる、
と考えられています。
ただ、この症状は耳管開放症だけではなくて
耳管がつまり気味の「耳管狭窄症」の場合にも
生じることがあります。
それでは、
耳管開放症の一番の特徴は何だと思いますか。
ご自身で経験された方は おわかりかもしれませんが
それは、「症状が姿勢や体位によって変化する」ということなんです。
つまり、立っているときや座っているときに
出ていた症状が
横になったり、前かがみになると
すみやかに軽く鳴ったり、消えること
なんです。
実際には、問診で、
このような姿勢による変化を尋ねたり
診察室で前かがみなってもらって
症状の変化を確かめたりします。
これは、どういうわけかというと
耳管のまわりにある
「翼突筋静脈叢」という
血管が豊富な組織が、
姿勢や体位変化によって、
容量が変わるということによります。
要するに、
横になったり、前かがみになると
耳管がつまり気味になる姿勢になるので
もともと 開放気味だった場合は 症状が軽くなる
というわけなんです。
ここまで解説してきたのは
症状をもとにする診断法です。
他には、他覚的所見というのですが
医師が診察をしたときに
「あ、これは耳管開放症を疑うな」
というものに
鼓膜が呼吸に合わせて動いてしまう
「鼓膜の呼吸性動揺」
というものがあります。
普通に、鼓膜を覗いただけでも
呼吸にあわせて
ペコペコと
鼓膜が動いて見える方がいらっしゃいます。
そこまで、わかりやすい方は珍しいんですが
患者さん自身の手で、鼻の穴を塞いでもらって
反対の鼻の穴から、呼吸音が聞こえるくらいに
強く呼吸してもらうと
鼓膜の動きが見える場合があります。
これが確認できれば
耳管開放症の可能性がありますね。という所見です。
他には、耳管開放症の検査というものもあります。
これには代表的なものが2つあって
ひとつは
音響法です。
これはどういうものかというと
音が出る機械を鼻にあてるんですね。
お耳の方には
音を拾うためのイヤホン型マイクをつけます。
ごっくんと嚥下するときに
正常であれば一瞬耳管が開くので
音が鼻から耳に抜けるんですね。
正常だと嚥下にあわせて
こんな波形になります。
この波形の幅とか高さをみて
耳管が開きっぱなしになっていないかどうかを見ます。
ごっくんしたときに
時間が開きっぱなしだと、こんな感じになります。
これは耳管開放症に典型的な
プラトー型波形っていうんですが
ごっくんしたら ひらいてそのまんま です。
典型的な所見ではあるんですが、
こんなにわかりやすく出ることは多くなくて
実際には、患者さんの10%くらいといわれています。
もうひとつ特徴的な検査結果があります。
検査のはじめから、
耳管がずっと開きっぱなしだと
鼻から耳に 音小さくても
つーつーにぬけちゃうので
鼻の方に、
提示する音が100dBという決められた値まで
全然上がらない、ということがあります。
こういうのも 耳管開放症を考える検査結果とされています。
TTAGといって
鼻咽腔の圧変化に伴う 外耳道圧の変化を見る検査もあります。
鼻と耳に圧を測定する機械をつけるんですね。
それで
反対の鼻の穴を閉じて呼吸したときに
呼吸の圧に合わせて 外耳道の圧が変化しないかを
見る検査です。
耳管開放症だと呼吸にあわせて
外耳道の圧変化が起こります。
耳管開放症の診断基準案2016
学会が提案している診断基準では
診断に関わる項目が大きく3つに分けられています。
3項目全部そろうと
耳管開放症の診断確定となります。
ひとつめは自覚症状について、です。
「自声強調」
「耳閉感」
「呼吸音聴取」
の一つ以上あること
2つ目
耳管閉塞処置で症状が改善すること
これは
姿勢変化で 症状が改善するとか
耳管のところにジェルを置いたりして
意図的に耳管を塞いだ場合に症状が改善するということです。
3つ目は他覚的所見
鼓膜が呼吸に合わせて動く
「呼吸性動揺」がある
あるいは
「音響法」や「TTAG」で耳管開放症を疑う所見である
ということです。
耳管開放症の治療
治療に一番大切なことは
「耳管開放症について
理解を深めること」
だとされています。
耳管開放症で困っている方は
自分の声や音が響く理由が
わからなくて、このまま
聞こえなくなるんじゃないかと
大変不安な状態で相談に来られます。
姿勢を変えるだけでも
症状が軽くなるような方もいらっしゃるので
そのような対処法をお伝えするだけでも安心されて
ストレスが減ったりします。
仕事中は姿勢を変えることは、難しいことも多いと思いますが
そのような場合、耳管開放の症状を和らげる手段として知られているものに
スカーフ療法というものがあります。
男性ではネクタイ、女性ではスカーフを
少しだけ締めるようにすると
頭からの 血液の流れをちょっとだけ
制限するようできるので
前かがみになったときと同じように
耳管がやや狭くなるように
働きかけることができます。
もちろん、苦しくなったり、
気分が悪くなるほどに、締めたりするのは控えて下さい。
全員に効果が見込めるものではないのですが
姿勢変化で、症状が変わるような方は
お試しいただいてよいかと思います。
他には
生理食塩水の点鼻
という治療があります。
立った姿勢、あるいは座った姿勢から
鼻に生理食塩水を点鼻するんです。
耳管のところに少し流れ込むように
点鼻したら、すぐに症状のある耳の方へ
頭をひねります。
生理食塩水が上手く耳管咽頭口に入らないと
効果がないので 、症状が消えるまで、
何度か行います。
だいたい60%くらいの
耳管開放症の方が
生理食塩水の点鼻で
症状改善するとされています。
たまに、点鼻した生理食塩水が
中耳に入ってしまって
耳の痛みや、違和感を訴えられることがありますが
そのような症状はたいてい短時間で改善します。
次の治療。
漢方薬の内服
抹消の血流増加作用や 抗ストレス作用が
あるとされる
「加味帰脾湯 」
「補中益気湯」
が用いられる事が多いです。
漢方が有効な場合には1~2週間程度で効果を
感じられることが多いといわれています。
他にも耳管開放症の治療には 外科的なものもあります。
ここまでの治療ですっきり
しないような場合には
その方の状態にあわせて
シリコン性の「耳管ピン」挿入
鼓膜に「換気チューブ」をいれて
中耳の圧変化が怒らないようにする方法 があります。
耳管開放症と 鼻すすり
耳管開放症の方の中には
「鼻すすり」が癖になっている方も多いんです。
鼻すすりをすることによって
耳管がロックされて
耳管開放症の症状が和らぐことがあるからなんです。
それで、耳管開放症のある方は、無意識に
鼻すすりをしていることがあります。
実は、これはお耳には良くないんです。
鼻すすりによって
鼓膜の奥である「中耳」が陰圧になります。
すると、鼓膜の奥がマイナスの圧になるので、
鼓膜がすこし凹んだ形になってしまうことがあります。
真珠腫という耳の病気に
進んでしまうこともあるので
鼻すすりの癖というのは
やめるように指導しないといけないものなんです。
はなすすり癖から
鼓膜の形まで変わってしまっていると 、
鼻すすりくせを治すだけ足らないことがあって
そんなときは
必要に応じて、
鼓膜チューブなど
外科的治療も検討していきます。
いかがだったでしょうか。
自分の症状は
耳管開放症なのかな、
と心配だという方の参考になれば幸いです。
今回は耳管開放症について
お話しましたが、
このページの解説に当てはまるような症状でも、
他の疾患のこともあります。
実際には、対面での診察や検査が大切です。
お困りの方は、ご相談ください。
大阪 和泉市の耳鼻咽喉科
電話 0725-50-3333
耳鼻咽喉科専門医:中西 悠