耳鼻科には「耳鳴り」でお困りの方はたくさん来られます。
これ、治るんでしょうか。
このページでは耳鳴りについて
診療ガイドラインに基づいて
わかりやすく解説します。
耳鳴りっていうのは
耳鼻科では 本当に多い訴えなんですが
根治できる治療法っていうのが
医学的には まだ 見つかっていないので
患者さんは 耳鳴りがよくならなくて
いくつも病院を巡って
いわゆるドクターショッピング状態になったり
病院やクリニック以外の治療にすがることもあります。
Youtubeで検索してみても
耳鳴りを消す体操とか
ツボとか
鍼治療とか
耳鳴りを消す治療音 とか
いろいろあります。
体に害のないもので改善するなら
そういうのも、ありかなと思います。
耳鼻科でご案内するような、治療のやり方以外にも
いろんな治療法が出てくるほど
耳鳴りを ぴったりと治すのは
なかなか難しいということなんですね。
いずれにしても、現在
医学的には これをやったら
耳鳴りが 必ず
ぴったりとまる というものはないんです。
しかし、ご安心いただきたいんですが
治療法がないというわけではありません。
ちゃんと いろいろ やり方があります。
このページでは、 耳鳴り診療ガイドラインを参考にして
治療効果が高いとされているものについて 解説をします。
まず 「耳鳴り」って 何?
ということについて説明します。
「耳鳴り」 は外部からの音刺激がないにもかかわらず感じる異常な音刺激
のことです。
人口全体の20%くらいの人が耳鳴りを感じているとされています。
5人に一人ですから、結構多いんですね。
ただ、実際に耳鳴りで困っているという方は
そんなにいなくて、
だいたい人口の2〜3%くらい
と考えられています。
65歳以上だと
30%くらいの方が耳鳴りを感じているとされています。
今後、さらに高齢化や
社会的ストレスの増加もあって
耳鳴りで悩む方は
増えてくるだろうと予測されているんです。
耳鳴りがひどくなると、
うつ や不安、 不眠など
精神障害を伴うことがあります。
さらに高齢者では
認知機能に影響することが 指摘されているので
治療が大事ということになります。
耳鳴りの診断
ここでは、中耳や外耳になにも異常がない
という前提でお話します。
まず、どのような耳鳴りがいつからあるのか、
左右ともにあるのか。
音に変化があるのか、など問診をします。
次に
他覚的耳鳴か 自覚的耳鳴かを区別します。
他覚的耳鳴 体の中に音がする原因のあるものです。
これは他の人にも
聞こえる耳鳴りなんです。
代表的なものだと こういうものがあります。
これはさらに 血管性 と 筋性の耳鳴に分類されます。
血管性耳鳴
鼓室内のグロムス腫瘍や
動静脈ろう
筋性の耳鳴
アブミ骨筋性耳鳴
耳管筋性耳鳴
口蓋ミオクオローヌス
他覚的耳鳴りでないものは、
自覚的な耳鳴り
つまり、 体の中に音がする原因のないもの
になります。
他覚的な耳鳴りの場合は、耳から脳につながる感覚路の
どこかが障害されていて
耳鳴りが生じるんだろうとされているんです。
実際にはこちらのタイプの耳鳴りが多いです。
次に、
どうして耳鳴りがするのかについて
説明します。
たいてい 耳鳴りは
特に理由もなくいきなり
始まることが多いです。
この耳鳴り、その名のとおり
耳で起こっているものだと
思われることが多いんですが
現在の医学では、
脳の中枢部分で作られている
という説が主流なんです。
それから、耳鳴りの多くは
難聴によって引き起こされている
と考えられています。
耳鳴りを訴える方の大部分、90%くらいには
なんらかの難聴があるとされているんですね。
だから、まず耳鳴りの訴えのある場合には
きこえの検査をして、難聴の有無をたしかめます。
耳鳴りを 訴えてこられる患者さんの中には
急性感音難聴といって、きこえの神経の問題が
生じていることもあるんです。
代表的なところでは
突発性難聴や
急性低音障害型感音難聴
メニエル病などがあります。
きこえの検査で 正常の
ように見えても
検査で 測定できる範囲より
低い音あるいは 高い音の
難聴がある場合の
耳鳴りというのは
検査上、一見、難聴がなくて
正常の聴力に見えるので
そういう可能性も考えないといけないんです。
難聴のせいで、
耳から脳につたわる信号が弱くなると
脳のほうでは、もっと頑張って聞こうとして、
音への感度をあげてしまうんです。
その状態が続くと、脳は新しい音の回路を
自分で作ってしまうんです。
これが 耳鳴りの原因のひとつだろうと考えられているんです。
つまり、
耳鳴りは
難聴がきっかけになって、脳が鳴っているという風にも言えるんです。
次に、耳鳴りの治療についてお話します。
近年の耳鳴りの治療では、耳鳴りの消失ではなくて
耳鳴りで困っている程度や、不眠など生活の障害になるものを
軽くする、ということが目標になります。
耳鳴り診療ガイドラインで
推奨されている治療
は エビデンスレベルと
推奨の強さでランクづけされています。
エビデンスが高いっていうのは、
簡単にいうと、客観的なデータがしっかりあるもの、ということです。
たとえば お薬が効くのか 効かないのかを
判定する場合、
お薬をのむ患者さんも
本当のお薬か 偽薬かわからない
処方する 医師も
本当のお薬か 偽薬かわからない
こういう状態(ダブルブラインド)で比較して、
効果があるかないか
厳しく判定したものが、エビデンスの高いデータです。
さらに 誰か一人の研究ではなくて
たくさんの研究者の報告内容を
比較しても、同じ結果というものが、
エビデンスの高いデータになります。
エビデンスの低いもの というのは
たとえば誰かの経験に基づいての治療など
他者からの厳しい評価を受けていなくて、
再現性が不明なものです。
これは、例えますと
私の手をかざすと 耳鳴りが止まります。
これで 誰かひとりの耳鳴りが止まったとしても
他の人に効くかどうかについては 、エビデンス ゼロ です。
こういうことです。
耳鳴りの診療ガイドラインで示されている
エビデンスレベルの高いものからご紹介します。
エビデンスレベル1 推奨度A
エビデンスが強く、
行うことを強く推奨するというものです。
1つめ 難聴がある耳鳴りに 補聴器をつける
2つめ 認知行動療法
まず補聴器のほうから解説します。
耳鳴りには ある程度の音を聞かせると
弱まる、あるいは 消えてしまう
マスキングという性質があります。
補聴器で 周囲の音を脳に
積極的に聞かせることで
耳鳴りへの意識を遠ざけて、
意識から消すように作用します。
これは、
ろうそくを 暗い部屋で
ともすか 明るい部屋でともすか という
ことに例えられます。
コントラストの関係で HAを装着すると
これまで聞こえなかった小さな生活音が
聞こえるようになります。
そうすると脳は もっとよく聞こうと
感度を上げることをやめていきます。
その結果 長期的には
耳鳴りは小さくなっていきます。
耳鳴りにより
会話が聞き取りにくいという場合も
補聴器をつけることで
外部からの音が大きくなるのに対して
体内から聞こえている耳鳴りは
大きくなりませんから、音のコントラストがついて
会話が聞きやすくなるというわけです。
難聴が全く無いのに 、耳鳴りがして困るという方には
サウンドジェネレーターといって、
一見、補聴器のようにに見えるんですけれども
音を大きくするのではなくて、小さなノイズを発生することで
耳鳴りが気にならないように導いてくれるものがあります。
最近では 補聴器にサウンドジェネレター機能が
ついているものもあります。
2つめ の認知行動療法について
認知とは、考え方や、ものの受け取り方のことです。
耳鳴りに対する 認知行動療法では
耳鳴りに対するネガティブな考え方や認識が
少なくなるように働きかけます。
具体的には、耳鳴りそのものが辛いのではなくて、
耳鳴りによって
起こってくる 睡眠障害や不安感、
ストレスが辛い という正しい認識になるように、サポートします。
耳鳴りは、なかなか他人に理解してもらえない
という側面があるので、患者さんはストレスを一人で抱え込みがちなんですね。
ストレスを抱えることによって、ネガティブな考え方になって耳鳴りが
悪化するという、悪循環に陥らないようにしようというものです。
次いきます。
エビデンスレベル1 推奨度B
教育的カウンセリングです。
耳鳴り治療のカウンセリングは、一般的なカウンセリングの概念と違って
耳鳴りに対する 教育的
あるいは 説明的なカウンセリングです。
これはどういうことかというと
耳鳴りについて 詳しくなってもらうんですね。
患者さんに、きこえの仕組みや
お耳の病気があるのかないのか
耳鳴りの発生するしくみ
治療の方法や目標
予想される経過などについて、説明します。
え、そんなこと? と思われるかもしれませんが
患者さんの不安や 疑問に答えることが
耳鳴りの治療には 重要、ということなんです。
次
エビデンスレベル2 推奨度C
エビデンスは弱く、
行うことを弱く提案、もしくは条件つきで行うもの
1 薬物療法
2 CDなど 環境音楽や サウンドジェネレーター
3 人工内耳
4 rTMS
となっています。
人工内耳とrTMSは適応になる方が少ないので
ここでは割愛します。
1つ目の薬物療法では、
不眠や うつの症状ばあれば、
それに対して
睡眠薬や抗うつ薬の
使用を推奨しています。
他のお薬については
十分なエビデンスがあるとはいえないんですが、
ビタミンB12や、
血流改善薬
には効果があるかもしれないね、
といった、弱めの推奨度となっています。
実際の臨床現場では、漢方薬もよく用いられています。
耳鳴りの治療に用いる主要な漢方薬を リンクに 貼っておきます。
耳鳴りに用いられる漢方薬
釣藤散:https://amzn.to/3wrk9TX
牛車腎気丸:https://amzn.to/3miy8H8
加味帰脾湯:https://amzn.to/2PR6ghb
もう一つの CDや環境音楽
サウンドジェネレーターについて
補聴器の項目で
サウンドジェネレータ−については、少し説明しましたが、
環境音、あるいはサウンドジェネレータの
ような外部音源を用いて静寂を避けることによって
耳鳴りを気にならないないようにしよう、というものです。
サウンドジェネレータを用いて行う治療に
TRT 耳鳴り再訓練療法
TRT (Tinnitus Retraining Therapy) が広く行われています。
TRTは 脳を訓練することで
耳鳴りがあっても、意識しなくていいようにないように
させるトレーニングなんです。
TRTのもとになった、神経生理学の研究では
通常、何らかの原因による耳鳴りがあっても
多くの場合 中枢性に順応が生じて
意識上は気にならないようになってくる、
とされているんです。
しかし、中枢性の順応の過程で、
不安や 焦燥感、緊張などの
ネガティブな反応があると耳鳴りを
持続的に感知するようになるんです。
この経路では、睡眠障害や、
肩こりや首のこり、頭痛のような
さまざまな自律神経反応も関係して
悪循環の形成を促進するといわれています。
TRTは こういう悪循環の経路を断つこと
によって耳鳴りを治療しよう というものです。
人は意識することで
物事の存在を認識できます。
いいかえると、意識しなければ、
無いのと同じということになります。
たとえば 生活雑音を考えてみてほしんです。
混雑したショッピングセンターを
想像してみてください
ざわざわしているはずなんですが、
その雑音がずっと気になるわけでは
ないですよね。
あるいは
自動車の交通量の多い道を
歩いているようなときを
思い出してみてください
車道では 車がたくさん走っている、
そして私は、だれかと歩道をあるいて話をしている...
そんなときは、
車の走行音気になりますか?
気にならないんですよ。
たしかに意識を、車の走行音に向けるとうるさいんですが
誰かと歩道をあるいて
お話に集中しているときは、
車の音は意識してないんです。
こういう風にもっていけると
耳鳴りを意識しないようになるだろう
というのが、TRTの考え方なんですね。
TRTは 耳鳴りを 脳が無視するように導くため
耳鳴りというものが どんなものなのか
正しく理解させるカウンセリングと
補聴器やサウンドジェネレーターを使って
外から音をいれる 「音響療法」を組み合わせたものなんです。
カウンセリングと聞くと、ちょっと仰々しい感じに聞こえますが
TRTのカウセリングは 耳鳴りの
不安を無くそうとするもので、「説明」や「指導」といっても良いと思います。
実際の臨床現場では、ここまで説明してきた
認知行動療法や教育的カウンセリングを含む内容になります。
耳鳴りは難聴によって
脳に届く音が小さくなった結果、起こることが多いんです。
音響療法では、それを逆手にとって
耳に十分な音をいれて
音によって耳鳴りを隠すことで、
耳鳴りの不快感を減らして
耳鳴りを意識させないようにして
脳にできた耳鳴りの回路を弱めるように
トレーニングしていくんです。
TRTの有効率は70〜80%と言われていて
ほとんどの方がある程度の改善を見込める治療といえます。
最後、
エビデンスレベル2 推奨度D
エビデンスは確信できず、行うことを弱く提案、もしくは行わないことを推奨するものには
鍼治療や
レーザー治療があげられています。
こういう治療が効く方というのもいらっしゃるかとは思いますが
このあたりは、患者さんがどうしてもご希望されたら、ということになります。
はい いかがだったでしょうか。
耳鳴りを 完全に消そう消そうとすると
今日は なってるかな なってるかな〜?って
耳鳴りを探すようなことになりかねないんです。
だから、治療の目標は
耳鳴りを消すのではなくて
前よりだいぶましだし、
そんなに気にならなくなったな、と
日常生活に困らないようにすることなんです。
耳鳴りの治療のご相談は はるか耳鼻咽喉科までご相談くださいね。